老け専ゲイ小説「色男」

 作・リュッツォ

 いつか一緒に住もうと思って間取り図を眺めていた。

 僕はベッドに寝転がってスマホをスクロールし、マンションの物件の間取り図を漠然と眺めていた。

 二人きりで暮らすことになったらそう部屋数は要らないだろうし、二人の歳を考えると小ぢんまりとして暮らす方がいいだろう。僕はそう思ってニンマリと笑った。僕、と言っても、いい歳なのだけれど。

 二人暮らしか、念願の。いつかは一緒に暮らしたい、そう思っていた。

 吉川さんとはこの町の片隅で出会った。半年前のことだ。

 僕が通い始めた禅寺での座禅会の先輩修行者が、吉川さんだった。修行者と言っても、吉川さんは一度定年退職して再雇用され、出会った時、七十六歳でも元気で働いていた。体たらくな僕とは違って、元気なおじいさんだった。

 最初の日、そう、最初の日だ、今でもよく覚えている、僕が早めに座禅堂に到着してどうしていいのかわからずにいた時、吉川さんが二番目に来て後ろから声をかけてくれたのだった。いつもは一番早くに座禅堂に入る吉川さんが、先客がいることに少し驚いている様子だった。

「初めての方かな」

「はい。初めまして」

「初めまして。座禅は他所で経験済みかな?」

「いえ、まったくの初心者です。インターネットで、こちらのお寺が土曜日に座禅会をやっていると知って、来てみました」

「まったくの初めてさんか」

 吉川さんは少し目を丸くした。

 その時の目だ、僕の心を捕らえて離さなくなったのは。あの、凛々しい白髪眉の下の、少し青味がかった老人の目。土曜日の夕刻に似つかわしいあの眼差し。真顔になった僕の顔をじっと見つめていた、すきとおるような眼差し。

 僕はと言えば、当時もう五十は過ぎていた。自分自身が老け専になってしまうだろうなんて自覚もなく、こんなお爺さんに惹かれてしまったことに驚いていた。しかも僕の歳を考えると老け老けだ。

 吉川さんは顔立ちの良い男前だった。薄くなった髪の毛すら、愛らしく感じられた。そしてあの時の、あのすきとおるような眼。

「これから他の修行者達が来るから、座布団の支度をするのを手伝ってくれるかな」

「ええ、もちろん」

 吉川さんは、十人分くらいの座布団を座禅堂の畳の上に並べ始め、僕も同じようにならって座布団を並べた。

「じゃあ、こっちに来なさい」

 吉川さんは目で合図し、互いに向かい合って畳の上に直に座った。

「こういう風に片足を腿の上に乗せて半跏(はんか)フザに座って、背筋を伸ばして、息を深く吸って長く吐く。基本はこうだから。目は閉じずに半眼にして先の方の畳を見て、自分の内面を見つめるように」

「はい」

 真剣に教えてくれるので、僕も真剣に聞いていた。

 向かい合った吉川さんの背格好は、歳にしてはがっちりとし、よく保たれていた。座禅堂は静まり返っていた。

 やがて、他の修行者たちがやって来始めた。修行者、と言っても、来れる時に座禅に来る人々だ。男性ばかりだった。

 どうしてだろう、年頃が近い人だっていたのに、なぜか吉川さんに惹かれた。そんな吉川さんは色男だと思った。

 この人はきっと、若い時よりも年取ってからの方が魅力的になったのだ。そう思った。きっと、若い頃はがむしゃらに働いていて、今になって魅力を持て余しているのだ、と。

 和尚さんがやって来て、法話のあと座禅が始まった。

 修行者はみな並んで座り、般若心経を唱えてから座禅を開始した。

 その時僕は座禅に夢中になったのもあり、吉川さんは僕のいた位置からは見えなかったので忘れてもいたけれど、それでも座禅の途中でも時々、目の前に吉川さんのあの青味がかった瞳が浮かぶのだった。

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色男