「調香師」解説

注:このテキストはゲイ小説サイト「調香室」にあったもので、2000年ごろに書いたものです。

 この作品はタテイシユウスケにとって、もっとも重要なものですね。これ以上のものが書けるかどうか、いつも不安でならないくらい。この物語のはじめとして、香りをゲイ小説に持ち込んでみたいという気持ちがありました。香りについてはまったくの素人ではなかったし。余談ですが、香りのことを勉強してみたい方にはフレグランスジャーナル社から「香りの創造」という名書が出ていますので、ご参考に。4500円もするので立ち読みでもいいんです。わたしは買いましたけれど。香りを音楽に喩えているところなんて、もう。(著者注:香りを音楽に例えて説明してくれたのは会社の調香師さんで、このフレグランスジャーナル社の「香りの創造」ではなかったと思います。勘違いでした。)

 この作品がタテイシユウスケとしてのデビュー作にあたります。以前、別の雑誌で別のペンネームで書いていたのですが、バディに投稿するなら大賞を取るくらいの心構えでいこうと思っていました。それがある日、いくつかの要素が像を結んでこの物語が突然出来上がったのです。長年あたためていたいくつかのこと、たとえば香り、いや、においかな、それから、たとえば目、たとえば夜の静寂、突然あふれる涙。わたし自身、突然涙があふれることがあるんですよ。セックスの最中に。この件についてはたぶん、ボトムノートのどこかで触れるでしょう。

 書き始めるとあっと言う間でした。他の作品を読んでいただけばわかるでしょうが、わたしは基本的に長い文章を書く人です。けれども、応募規定に25枚とあったので、かなり削りました。結果的にそれが良かったんだと思う。

 話はそれるけれど、この物語を書いている間は一切音楽を聞かなかったな。

 書き進めていくうち、自分の生い立ちやその他のことがかなり作品に吸い込まれてしまいました。読み返して自分でもびっくりするくらい。特に親から虐待を受けたこと、悲しみについて。これらのことに関しても、後に述べることになるでしょう。

 そして物語が出来上がり、小説大賞の候補として入選しました。それまでわたしは書きものをしていることを誰にも話さずにいたのですが、ある友人に読んでもらったところ、とてもいい反応でした。また、読者の反響も良かったと聞いております。読者投稿にも、すごく誉めてくれた方がいらっしゃいました。

 結果的に、次に書いた「みずぎわ」の方が出来がいいとのことで本作はノミネートから外れてしまいました。一期に一人の作家の作品は一つしかノミネート出来ないということです。わたしは単純に「みずぎわ」が本作を越えたのだと喜んでおりました。

 今読み返しても、わたしのひたむきな頃を思い起こさせる作品です。たぶん、この作品から一生離れられないんだろうな。

(終)

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