あいつ

 あれはまだわたしが壊れてしまう前だった、破壊の前兆はすでにあったかもしれない、今とはちがう精神状態に陥る以前の、常に男を探していた頃だった。

 わたしは三十半ばで、あいつも三十半ばだった。

 あいつというのは、わたしが壊れて粉々になってしまう前に会っていた男だった。

 男には飾り気がなく、穏やかな性格だった。

 男はわたしをファックしてわたしに悦楽を与えてくれた。

 男とは何度も会った。

 あいつは昂りの硬い男だった、わたしをファックするときにでも、体の中に硬い硬いアレがあるのだと知らしめられるほどの昂りだった。

 今でも忘れない、男はわたしをベッドに伏せさせて、わたしの肛門の中にアレをねじ込む。決して乱暴ではないが容赦もないくらいにねじ込む。体の中に男が入ってくる。

 わたしは頭が破裂しそうになる。

 もう、痛みだとかそんな感覚もなく、ただただ硬いアレの先端を受け入れる貝殻になってしまうわたし。

 男は容赦なくわたしの奥に入ってくる。奥の方の、あの、わたしの深い部分に当たる亀頭がゴム毬のように硬い。その硬い塊、たった数センチなのにわたしを支配してしまう硬い塊がわたしの内部の深いところに当たる。

 伏せさせられたわたしの体の下では、シーツに先走りのシミがついている。わたしは、こちらも硬く勃起しているペニスの先端から透明の液体を滴らせ、ペニスはシーツに擦り付けられ、わたしは暗いホテルの壁に向かって声をあげる。壁に向かって喚き散らし、もっとファックしてくれと雌豚のようにねだる。

 あの頃のわたしはきっと、性的には一番の進化をしていて、どんな男とやっても頭が転がるほど感じていた。

 身体中は性感帯になり、性的に進化した性獣のように雄叫びをあげていた。

 こんなことを告白できるのはわたしが歳をとってしまったからで、あの時代にはこんなことは口が裂けても言えなかった。

 わたしは筋トレした筋肉質の体で男を誘惑する。

 それに惹かれてやってきた男の一人があいつだった。

 二人は昼日中にラブホに入る。そのラブホはいつだってカーテンが閉まっていてわたしの居心地を良くさせる。最初から暗いのはわたしを穏やかにさせる。

 服を脱ぐのはもはや暗黙の了解で、その後あいつと貪り合う。

 あいつはわたしに脚を広げさせ、その中央にある肛門にローションを塗る。わたしの肛門はまだキツく、あいつは時間をかけてわたしの肛門をほぐす。

 そんな手順を話したいわけじゃないんだ、わたしは、わたしはきっと、あいつとしか到達しえなかったあの深み、暗い暗い部屋の中で二人が確かめ合ったあの硬さと黒さ、暗さ、わたしの中に入ってきた硬いペニスの強烈な衝撃について書きたいだけだ。

 わたしは喘ぐ、喚き散らす、もっと突いてくれと叫ぶ。

 あの硬さはわたしを狂わせる。

 あいつは後ろからファックするのが好きだった。

 いや、どうだったかな。わたしの印象に残っているのが後ろから差し込まれたあいつの硬いペニスであって、あいつはもしかしたら、普通に正常位で乳首を舐めてくれたり、脇腹を撫でてくれたり、繋がったままキスしてくれたのかもしれない、もう思い出せないけれど、きっとむつみあいのようなセックスもしたのだろう。

 けれども、今、遠い過去を振り返って、わたしに思い出せるのは、暗い部屋の暗がりと、後ろから突いてきたあいつの昂りだけだ。杭を打ち込むように突くあいつの硬さ。それがわたしの深い深いところに届く。

 一緒に射精するとあとはどうでもよくなる。

 あいつがどうでもよくなるんじゃない、あいつとセックスをしているというのがどうでもよくなる、あいつがごく仲の良い友達のように思えてわたしは甘える。

 そして車で家の近くまで送ってもらう。あいつはよく喋る。わたしは聞き役で、相槌を打っているだけだ。

 あいつとはなんとなく会わなくなってしまった。

 そんなことで途切れてしまった。もう顔も思い出せない。それなのにわたしを打ちのめすのはあの暗い部屋の中で感じた硬さと痛みだ。

 わたしは顔を歪ませ、苦痛に顔を歪めさせ、それでも硬いペニスを受け入れていた。

(終)