孤独の中で

 あれは確かに密室だった。わたしは東京にいた頃、密室の中で書いていた。書くことの孤独の中に浸っていた。浸らざるを得なかったのかもしれない。

 書くところを見られたことは一度もない。

 それは今では犬が一緒にいる。

 あの頃も、イタチがいるにはいた。けれどもイタチは書く邪魔にならなかった。

 わたしはマンションに帰るとドアの鍵をかけ、たった一人きりの部屋で呼吸をしながら書いていた。あの頃は、小説が書けていた。今では小説はなかなか書けなくなってしまった。

 小説を書いてどうなるのだろう、とふと思う。それで筆がはかどらなくなってしまった。

 あれは本当に孤独の中にいる作業だった。頭の中で物語を紡ぎ上げ、解体し、時に破壊する。そして書く。そんなことを長年やっていた。

 一時期、まったく書くということをしなかった。

 犬がいるからだ。犬はイタチと違って遊んでくれと催促するし、わたしも犬が好きなものだから、書かなくなってしまった。

 今は老犬になってしまって、犬が眠っている間に書いている。もしくはわたしが書くことの禁断症状の中にいる時、わたしは書き始める。すると犬はあきらめてベッドに上がって眠ってしまう。

 わたしは犬の老化に合わせてベッドを解体し、今は床の上にマットレスだけを置いている。それでも犬は自力ではもうマットレスに上がれなくなってしまった。

 時々、この部屋で男を拾う。男たちの大抵はわたしが犬と寝ていることを嫌がる。

 犬は土足で外を散歩し、わたしは大して犬の足を洗ったり拭いたりすることもなく、犬はわたしのベッドに上げてくれと催促する。わたしは足を洗わないままの犬をベッドに上げる。

 もう、犬は十二歳だ。

 わたしは時に犬に背を向けて書き物をする。最近では書くのは詩かテキストで、小説は途中で止まっていることが多い。それくらい集中力がなくなってしまった。

 わたしは大体が孤独になりたがる。書くのは、孤独になるためだ。きっと、孤独になりたくて書いているのだろうと、今では分析している。

(終)