窓辺にかかった白いシャツ

 このテキストを綴る時にわたしの瞼にあるイメージは、窓辺にかかった白いシャツの幻影だ。このテキストは、小説化した「黒装束」を補完する文書になる。

 おそらく賃貸で、さほど高級物件とはいえないマンションの窓辺に、白いシャツがかけられているイメージ。そして時刻は夜で、その白いシャツは告別式に着ていくために男が用意していたものだった。わたしが持っていたイメージはこれだけだった。

 男はもう、働いて得られる程度の金には興味がなくなってしまっている。なぜなら男の人生は踏みにじられ、金をあてがわれても喜べないような心にされてしまっていたから。

 男は無職で、働いて得られる程度の金に興味がない以上、仕事を探そうともしない。男が持っているのは異母兄弟に当たる兄への憎しみで、その兄が先日死んだ。そして明日の告別式の準備として、窓辺に白いシャツをかけていたのだった。

 男は告別式にはただ確かめに行くだけだと言う。あの男のために葬式を出す物好きがいるのか、見に行くだけだと。

 こんな男でも、雨の中で男と出会ってしまった。冷たい雨の中、差し出された傘を共にした男の温もりに包まれて、男が抱えて生きてきたものが、とけだそうとしている。

 彼らは素直な愛を交わすことができない類の男たちだったが、互いを見失わないように懸命にしがみついている。そんなあらすじの中、窓辺にかかった白いシャツが彼らを脅かす。

 わたしの目に浮かぶのは、夜の暗い部屋の中、外の街灯の明かりを浴びた白いシャツが、マンションの窓べで揺れている、そんな光景だった。そのモノトーンで色彩のない光景に、この物語りが降りてきたのだった。これは書かなければならない類の書き物となってしまった。