「すきとおる。」解説

この物語を書いたときに思い描いていた丘の写真。ある晴れた日曜日の午後。

 この物語は、すごく表面的に書いた気がする。嫌いなわけではないの。だけど、前作「みずぎわ」が難解だと言われたから、やさしいのをひとつ書いてみようかと思ったわけ。夏の気だるさがにじんでいるみたいな。あまり手の内は明かせないけれど、文中にも使っていた「コーリング・ユー」は聞いたな。バクダッドカフェのサントラね。男性ボーカルのほうを特に聞いた、誰だっけ、名前が思い出せないや。


 おしゃれな感じにしたかったし、色や音をたくさん使いたかった。でも最終的には「すきとおる。」みたいなのを。あまり文学に慣れていない人にも読んでもらいたかったから。つまり、あなたのために書いたんですよ、Hさん。あなたのリクエストに応えて登場人物も少なくしました。


 あなたは案の定、「すきとおる。」って「好き、トオル」のことじゃないの? って尋ねたよね。ぼく自身、それがいちばんイヤだった。当初、この物語のタイトルは「ボルボ」だったの。だけど、サングラスに映っていた恋人の像が消えるのを思いついたとき、「すきとおる。」に変更した。誰だって理想の恋人像にしがみついていたいよね。でも、幻影が透き通ったときに初めて見えるものもあるんじゃないかな。それは、あなたの目の前にいる人かもしれません。


 この物語は読者に捧げたものです。そう思って投稿後はすっかり忘れていた。でも読み返して驚きましたね。自分のことがたくさん書いてあって。特に海について。それから、父親が建築家だったこと、母が愛人だったこと、兄にかわいがられなかったこと。書いている途中は、ありきたりな恋愛物語を文章だけでねじふせてるなあ、なんて自分でも思っていたけど、読み返してみると、とてもお気に召しちゃった。たぶん、僕自身の恋愛の理想を投影しているんだろうな。こんなことを考えていたら、いつまでたっても幸せになれないな。


 ちなみに、Jさんが描いてくれた「みずぎわ」のイラストがとても素敵だったので、僕のほうからリクエストして描いてもらいました(ほんとは偶然? だって何だって自分の思い通りにはいかないよね)。小説を書いていていちばん楽しいのは自分の物語にイラストがつくこと。本作のイラストを見たとき、正直なところ、いつものJさんらしくないなあ、と思ったけど、物語を読むとぴったり合ってました。イラストレーターの方もいろいろと大変なんでしょうね。ちなみにわたしは絵はぜんぜんかけません。Jさん、ありがとうございます(この言葉が届くのかな)。