つきみそうと、あくしゅ

 としとったろうけん、プティをなくしたばかりのりおとくんは、とても、きぶんがしずんでいました。
 もう、さんざんないたので、これいじょうなみだも出そうにありませんでした。
 しずかで、でも、ときどきあばれるうみべの、町に一つしかないとうだいの下、ていぼうにこしかけて、下のなみを見つめていました。
「りおと、やっぱりここだったのかい。」
 それは、少し年のはなれたお兄さんの声でした。りおとはだまったままでした。
「プティはね、天国に行ったんだからおちこむことはないんだよ。おまえはさいごまでめんどう見たんだから、もういいんだよ。」
 空の水色が、少しずつこくなり、日がくれかかってきました。それでも、りおとはだまっていました。
「とうさんも、かあさんも、まってるから、さあ、かえろうね。」
 りおとは、ふりかえろうとせず、海のほうにうつむいていました。
「こっちをごらん、プティをつれてきているんだよ。」
「え?」
 りおとは、おどろいて、ようやくくびを、兄さんのほうに、めぐらせました。
 すると、兄さんは、プティのなきがらを抱いて、また少しくらくなった町のほうに、たっていました。
「プティ・・・。」
 プティのなきがらをみたりおとは、なみだがこらえきれなくなって、なきはじめました。
「さあ、プティを土にかえしてやろう。」
 りおとは、プティがこいしくてこいしくて、ていぼうをおり、やっと、兄さんのそばにいきました。それから、兄さんがだいているプティのせなかを、さすってやりました。
「さあ、しばらくのあいだ、プティをだいていてくれ、うめるあなを、あきちにほるから。」
 兄さんは、プティをりおとにあずけ、スコップで、とうだいの下の、ていぼうから道をへだてたところの、そうひろくはないあきちに、あなをほりました。そのあたりは、こうじょうのうらの、あきちになっていました。
 それから、ないているりおとがだいているプティのなきがらを、もういちどあずかり、あなのそこに、そっとおろしました。
「さあ、おわかれしなさい。」
 りおとは、プティのからだを、なんども、なんども、なでました。なにを言っていいのかわからず、ただすすりないていました。なみだがこみあげて、しかたがありません。
「じゃあね、土をかぶせるからね。」
 ほりかえしていた土の山を、兄さんはゆっくりと、あなにかぶせました。
「プティ、さようなら。」
 りおとのかたは、ふるえていました。
「兄さん、こんなとき、ぼくはどうすればいいんだろう。かなしくてしかたがないよ。」
「かなしいときは、かなしんでいいんだよ。」
 兄さんは、りおとのかたにやさしく、手をおきました。
 おわかれがおわると、兄さんは、りおとの手を、やさしく、とりました。
「さあ、かえろう。もうあたりもくらくなってきたし、とうさんも、かあさんも、しんぱいしているぞ。」
あたりは、すでに、くらくなりました。
兄さんとりおとが、たちさろうとしたとき、プティのおはかのそばにさいている、ひとむれのつきみそうが、りおとの目に、はいりました。つきみそうは、十本くらいむらがってさいていました。
 兄さんのあとについてりおとがあるきはじめると、だれかのこえが、きこえました。
「お兄ちゃん。」
 こえは、そう言いました。りおとがふりかえると、むらがったつきみそうの一本が、りおとにかたりかけているのでした。
「わたしですよ、プティですよ。」
「プティ?」
 りおとは、ふしぎでなりません。
 つきみそうのむれのうちの一本がことさらあかるいので、その一本がささやいているのだと、わかりました。
「ええ、わたしは、あしたには、お月さまに行くことになっているんですよ。
 イヌは、しんでしまうと、お月さまに行くんです。しんだそのばん、つきみそうになって、花をさかせて、お月さまに行くじゅんびをするのです。
はなびらが、うすいピンクにかわります。
朝になって、花がしぼむころ、しずんでゆくお月さまのところに行って、それから、えいえんに月でしあわせにくらすんですよ。」
「プティ、そんなのいやだよ、ずっとぼくのそばにいてよ。」
 りおとは、また、なきそうになりました。
「しんぱいなさることはないですよ、わたしはお月さまから、お兄ちゃんのこと、みまもっていますから。
ずっと、みまもっていますから。
わたしは、お兄ちゃんに、お月さまからしんごうをおくります。」
 りおとは、つきみそうになってしまったプティの白い花を、じっとながめました。プティはつづけました。
「ほんとうに、だいじょうぶですよ。わたし、りおと兄ちゃんのこと、大好きですから、お月さまで、お兄ちゃんのために、うたいますよ。お兄ちゃんのところに来て、ほんとうにしあわせでした」


 プティはたからかにうたいました。


月からうたをうたいます
月のヒトデをケチラシテ
うたひめのオルゴールはしずかにまわり
たいようのきらめきを
うつしだすカガミです


「さあ、おわかれしましょう。おわかれのしるしに、あくしゅ、しましょう。」
 そう言ったつきみそうの声は、おだやかで、でも、少しだけ、さびしそうでした。
 すると、つきみそうのはなびらが、あくしゅの手をさしのべるように、りおとのほうに、ちかづいてきました。
 そのつきみそうのはなびらは、うすぐらいゆうやみの中で、月のひかりのせいでしょうか、うっすらとピンクにかがやいているように、まぼろしのように、りおとの目にはうつりました。ほかのつきみそうとは、ちがって見えました。
 つきみそうがさしのべた手に、りおとはあくしゅしました。
 ふと、われにかえると、兄さんは少しさきを歩いていました。
 うすい月は、ぎん色に。
 おくれないように、りおとはついて歩き、そのばんから、夜になると、月をながめるようになりました。
 りおとは、もふくをきたハートを、ぬぎすてました。だれよりも、プティのために。
 りおとはおとなになってからも、月をながめるのでしょうか、ね。

(終)