呪われた屋敷に鎮座するテレビ

 ねえ、お母さん、テレビを思い出せますか? もう、私たちはすっかり落ちぶれてしまって、テレビがこわれてからはや十年、買いかえることすらできなくなって、こののろわれたお化け屋敷みたいな、かたむいた家の、この、のろわれた仏だんが二つもほうちされている座敷、竹が床をつきやぶり、イタチが天井裏に住み着いて、イノシシが時々おとずれる、呪われた交配のスイレンが見わたせるこの座敷、ここに据えられたままのこのこわれたテレビがちんざましましているこの座敷に、あなたは一日中すわりこんでほうけてしまって、テレビが思い出せますか?

 世の中のできごとや笑いをうつしだす、この画面に、色々なものが映し出されるテレビ。

 戦争は終わりましたよ。いつまでもしんぼうしていないで、そろそろそのいこじな頭をもう少し元に戻して、思い出せないですかね、テレビ。

 水を使っただけでソロバンはじいてわめきちらしたりせずに、思い出してくださいよ。

 モニターという画面から光があふれてきて、幸せな景色や人々の顔がみれるのは、知っているでしょう?白黒からカラーになったのも、覚えているでしょう?

 お父さんがはさんしてしまって、テレビが買えなかった時だって、乗り切ったでしょう?

 バッハをかけても、ドビュッシーをかけても、あなたと私がこんなだったら、原始時代に戻ってしまう。

 ブラウン管ももう終わりましたよ。とてもうすくて、今ではかべにかけれる時代ですよ。どんな番組をやっているのか、長らくみないから知らないけれど、この真っ暗な部屋を、少しは明るくしてくれますよ。

 お母さん、テレビを思い出してくださいよ、ねえ、お母さん、お願いですよ。

(終)