童話「ゼンマイ仕掛けのバイオリン」

作・リュッツォ

 ある小さな町のゴジルくんと、テツヤくんは、同じクラスのクラスメイトで、たまたまつくえがとなりあわせでした。

 けれども、ゴジルくんはゆうふくな家の子供で、テツヤくんはまずしい家の子という点で、ふたりはとてもちがっていました。

 ゴジルくんは、テツヤくんが作る工作や、ときどき先生にさされてテツヤくんが発表する作文に、とてもきょうみをもっていました。テツヤくんはどうしてあんなことを思いつくのだろう、テツヤくんはちがった発そうをもっているのかなと、うらやましいとすら思うことがありました。

 いっぽう、テツヤくんはまずしい家の子なので、工作のざいりょうを買ってもらえません。

 しょうてんがいのお店なんかからもらってくるダンボール箱をばらして、じょうずに工作していました。テツヤくんはゴジルくんがお金持ちの家の子だということが、うらやましくてしかたがありません。

 家にかえっても、お父さんはくらい顔をしているし、お母さんはしごとにでかけているので、おもしろくない。

 ある日、学校のかえり道、道草をくって、よその家のおにわ先の花だんをながめていると、こがね色のクリスマスローズの花がありました。テツヤくんは、しばらくお花をながめていました。

 クリスマスローズが花を咲かせるのは、二月下じゅんから三月です。テツヤくんは、おにわ先にうえられた、たくさんのクリスマスローズをながめ、なつかしい気分に、ひたっていました。それには、わけがありました。

 そこへ、ぐうぜん通りがかったゴジルくんが、やってきました。

 ゴジルくんは、テツヤくんの発想がうらやましいとは思っていましたが、テツヤくんとはあまり話したことがないので、どうしようかと、少しものおじしてしまいました。

 でも、いちどテツヤくんと話してみたかったので、ゆうきをふりしぼって話しかけてみました。

「テツヤくん、いったい、よそのおにわのなにを見ているの?」

 ゴジルくんは気づかいのできる子だったので、やさしく話しかけました。けっして、よそのおにわをながめているテツヤくんが、ふしんしゃであるような、せめるような話し方は、しませんでした。

 テツヤくんは、あまりにクリスマスローズの花がなつかしくて、ながめているうちにぼうっとしていましたので、びっくりぎょうてんして、ふりかえりました。

「ああ、びっくりした、ゴジルくんか。

 いやね、ここのおうちにきれいなクリスマスローズのお花がうえてあったから、それを見ていたんだよ。しかも、たくさんうえてあるんだよ。いっしょに見てみる?」

「クリスマスローズ?」

「そう、クリスマスローズ」

「クリスマスローズ、って何?」

「このお花だよ。冬にさくバラみたいだから、そう名づけられたんだけど、じっさいには、春先、ちょうど今のじき、新しい学年をむかえるまえに、さくんだよ」

「どうしてそんなこと知ってるの? テツヤくんはいつもかわったことを言うね」

「そう? ぼく、かわってなんかないよ。前にすんでたお家のおにわに、さいていたから知ってるんだよ。

 クリスマスローズって、ほかの花とはちがって、ガクって、お花のうしろにあるところが、進化した花なんだって。

 ようちえんのときによんだ植物図かんにのっていて、ぐうぜん町で見かけたから、お母さんにねだって買ってもらったんだ。

 ぼく、あのころ聞きわけがなかったんだよ。いけない子だなあ」

  テツヤくんは、そう言ってちょっとだけほほえみましたが、そのあと、お花がかれてゆくときのように、しおれてしまいました。

「どうしたんだよ、しょげてしまって」

 ゴジルくんはやさしい子だったので、心ぱいになって聞いてみました。聞かれたテツヤくんは、すこし顔をあげました。

「ううん、なんでもないよ。心ぱいしないでね」

「今はおうちに、その、クリスマスローズっていうのはないの?」

 ゴジルくんがそう聞くと、テツヤくんは、ますますしょげて、うつむいてしまいました。

「今はもうないんだ、ひっこしてしまったから・・・」

「ひっこすときに、つれていかなかったの?

 どうして、ひっこしてしまったの?」

 ゴジルくんには、立ち入ったことを聞くつもりはありませんでしたが、テツヤくんにきょうみがあったし、せっかく話しかけたんだから友達になりたいという気持ちで、聞いてみました。

 テツヤくんはうつむいたままでしたが、やがて、顔をあげました。

「うん、それは、またこんど話すね」

 テツヤくんは、がんばってほほえみました。

 そう言って立ちさろうとするテツヤくんに、ゴジルくんはやさしく言いました。

「ねえ、テツヤくん、よかったら、うちにあそびに来ないかい? お父さんが、クラシック音楽が好きだから、うちにはけっこうあるんだよ」

 ゴジルくんは、テツヤくんが心ぱいになって言いました。

「そうなの? たのしそうだね。でも、おじゃましちゃいけないから、やめておくよ」

 テツヤくんは発そうはおもしろい子でしたが、いっぽう、えんりょがちな子でした。

「おいでよ、さっきテツヤくんが、ちょっとしょげてたのが気になるんだ。音楽をきくと、きもちが楽になるんだよ、とくにクラシック音楽はね」

 テツヤくんは、とてもきょうみを持ちました。

 だけど、家にいるお父さんの、かなしそうな顔を思い出してしまい、かえったほうがいいような気もしました。けれども、お父さんのいつものかなしそうな顔を見るのはつらいというきもちもあって、とてもまよいました。

 お父さんは、家でとてもくらい顔をしています。

 テツヤくんは、やはりきょうみがあったので、とうとうコクリとうなずいてしまいました。

「うん、少しだけなら」

 テツヤくんは、えんりょがちに言いました。

 ひょんなきっかけから、テツヤくんは、ゴジルくんの家にいくことになりました。

 ふたりでいっしょに歩いていると、同じクラスのフルールさんと、チエコさんが、つれだって歩いているのを見かけました。

 フルールさんは立っぱな家にすんでいる子で、そのときは、にじ色のレインコートをきていました。

 いっぽう、チエコさんは犬をつれていて、それほど、ゆうふくな家ていではなく、お母さんと二人でくらしていました。

 ゴジルくんは、ふたりにあいさつしました。

「やあ、こんにちは。かわいいワンちゃんだね」

「あら、ゴジルくん、このイヌは、ミニチュアシュナウザーっていうしゅるいなの。

 おかあさんが、カットにつれていくお金をおしんで、じぶんでカットするものだから、毛がガチャガチャになってしまって、ざんぎりあたまのミニチュアシュナウザーって、ごきんじょさんによばれているわ」

 それを聞いて、みんなで笑いました。チエコさんは、つづけました。

「きょうは、おかあさんが、おしごとでおさんぽできないから、わたしがしているの。フルールさんは、いつもつきあってくれるわ。

 フルールさんの、このにじ色のレインコート、とてもすてきでしょ?」

「そうだね、すてきだね。女の子の服のことはよくわからないけど、すてきな色だね」

 と、テツヤくんが言いました。

「でも、どうして雨なんかふっていないのに、レインコートをきているの?」

 ゴジルくんが、ふしぎそうな顔で聞きました。

「あら、それは、あたくしのきまぐれよ」

 フルールさんは笑いました。

「フルールさんたら、とてもきまぐれなの。だけど、とってもおもしろいわ」

 ちえこさんも、笑いました。

 テツヤくんが、二人に言いました。

「ぼく、これからゴジルくんのうちに、およばれして行くんだ。フルールさん、ちえこさん、おさんぽ楽しんでね」

「ええ、ありがとう。あたくしたちも、おさんぽのつづきがあるから、ここでしつれいするわ。ごきげんよう」

 フルールさんは、ほほえんで、それから、ちえこさんとイヌといっしょに歩いて、べつの方向に行ってしまいました。

 ふたりをみまもっていたゴジルくんが、ふとテツヤくんのほうにむかい、おだやかな顔でテツヤくんの顔をながめました。それから言いました。

「あのふたり、いつもなかよしで、うらやましいね。ぼくたちも、あんなになかよしの友達に、なれるかな」

「そうだね、きっとね」

 テツヤくんも、ほほえみました。

 ふたりは、かたをならべてゴジルくんのうちまでのみちのりを歩きました。

 歩いているさいちゅうも、テツヤくんは、しきりにみちばたのお花やしょくぶつの名前を、ゴジルくんにおしえてあげていました。

 道ばたのざっ草をさして名前を言ったり、よそのおうちの花の名前を言いました。

「これはタンポポ、知ってるよね?」

「うん、もちろん」

「あのいえでは、ハエトリグサをああやってそだててるんだあ。ぼく、植物図かんでしか見たことないや。ハエトリグサは虫をパクッとくわえて食べるんだよ」

「そんなこと、あるもんか」

「ほんとうだよ。図かんにものっていたよ」

「へえ、おもしろい植物があるんだね」

「あ、この雑草はナズナだ」

 ゴジルくんは、テツヤくんが言う名前はおぼえられませんでしたが、テツヤくんがねっ心におしえてくれるので、楽しかったのです。

 やがて、ゴジルくんの家の近くにつき、もうざっ草もなくなって、立っぱな家がたちならんでいました。

「ここが、ぼくのうちだよ」

「うわあ、すごいお家だね」

 テツヤくんは、そのりっぱさにこしをぬかしてしまいそうになりました。

「お父さんがたてた家だから、ぼくはちっともえらくなんかないんだ。お父さんがいつも、そう言うんだ。おまえはじまんなんてしてはいけないよって」

 そんな話をしながら、二人は門をくぐって、大きなお家に入りました。

「ぼくの部屋でもいいけど、クラシック音楽をきいてもらいたいから、お父さんの部屋に行こうね。お母さんに言ってくる」

 そう言ってゴジルくんは家の中に入っていき、テツヤくんは、りっぱなげんかんで待っていました。しばらくしてゴジルくんが戻って来ました。

「お母さんが、いいって。お父さんは、ぼくが音楽が好きなことをうれしがっていて、いつでも音楽をきいていいって言ってくれてるんだ」

 二人は、ろうかをずっとわたって、部屋をいくつもこえて、ゴジルくんのお父さんの部屋に行きました。

 ゴジルくんがとびらを開けると、テツヤくんはびっくりしました。広い部屋に、大きなスピーカーが置いてあり、色々なきかいやCDがならべられていました。

 テツヤくんは、少しだけ部屋のようすを見ましたが、あまりジロジロ見るような子ではありませんでした。

 やがて、お母さんがお茶とクッキーを持って来てくれました。

「まあ、ゴジルに新しいおともだちができるなんてうれしいわ。ゆっくりしていってね」

「おじゃましています。テツヤと言います」

「音楽のききかたはゴジルが知っているから、いいのをきいていってちょうだいね」

 お母さんは、そう言って部屋を出ていきました。

「さっそく、クラシック音楽をきこうか。この前、お父さんにハイドンのえんそう会につれていってもらったんだ。ハイドンのCDをきかせてあげるね。そこのソファに座ってくれよ」

 テツヤくんは、こんなきかいやCDを見るのが初めてだったので、きょうみしんしんでしたが、言われたとおり、ソファに座りました。

 テツヤくんがきかいをそうさすると、スピーカーから大きなオーケストラの音がきこえました。

「うわあ、すごい音だなあ。でも、なんだかぎょうぎょうしい音楽だね」

 テツヤくんはおどろいた顔をしました。ゴジルくんはまだ、きかいの前に立ったままです。ゴジルくんは、ふしぎそうな顔をしました。

「ぎょうぎょうしいってどういういみ? テツヤくんはむつかしい言葉を知ってるね」

「大げさ、とか、そういういみじゃないかな、お母さんがよく使うけど」

「あ、この音楽は、今のテツヤくんにふさわしくないね、ちょっと、くらいかんじだし。

 ほかの曲をきかせてあげるよ。

 ちょっと、待ってて」

 ゴジルくんは、CDプレーヤーをそうさして、ほかの曲にしました。

 かろやかな、フエのような音が、時計のように鳴りました。

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ゼンマイ仕掛けのバイオリン