A Chainless soulに寄せて

祈らばわが祈りは一つ、
わが唇はつぶやかむ、
「いまわが抱く心のままに在らしめたまえ、
われに自由を与えたまえ」と。
さればわが日、沈みを急ぐいまこのとき、
ひたにわがもとむるもの、
生と死をつらぬきて雄々しく耐うる
鎖なき魂ひとつ。

(エミリー・ブロンテ「嵐が丘」解説中で紹介された詩「老いたるストアの徒」第2、3節。田中西二郎さんの訳をお借りしました。)

 私、リュッツォはこのエミリー・ブロンテの詩の「鎖なき魂ひとつ。」という言葉を聞いた時、何か引っかかるものを感じました。

 私が初めてエミリー・ブロンテの「嵐が丘」を読んだのは高校2年生、16歳か17歳の時でした。その時に、作品の解説にあるこの詩に気がついていたかどうか、記憶が定かではありません。

 当時、私の父が事業に失敗して貧しい暮らしをしていたので、田舎のボロボロの木造平屋の家に住んでいました。田舎の家だったので広さはあり、私は10畳の部屋を使っていました。もう、とにかくボロくて、壁が破れていても直せないくらい貧乏をしていましたが、「嵐が丘」ファンの方なら、高校生が壁の破れたボロ屋で夜な夜な「嵐が丘」を読むというのは、ある意味理想的な環境だと共感していただけるでしょう(笑)

 「嵐が丘」は大好きな作品なので何度も読みました。27歳でロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーを訪ねた時、ブロンテ兄弟の肖像画があるのに気がつき、売店でブロンテ兄弟の詩集を見つけたので購入しました。

 ファンの方は知ってらっしゃるかもしれませんが、ブロンテ兄弟の最初の詩集に、この「老いたるストアの徒」は収録されておりません。私は気になっていた「鎖なき魂ひとつ。」の原文を探して詩集を読みましたが、見つかりませんでした。

 それから時が経っても私の中で「嵐が丘」は色褪せることはなく、むしろエミリーの「鎖なき魂ひとつ。」が気になって仕方がなかったので、藤木直子さん翻訳の「エミリ・ブロンテ全詩集」を購入して読んでみました。

 この藤木さんの本は、エミリーのすべての詩を日本語に訳しているという点でも、エミリーが自ら描いた絵を掲載している点でもとても貴重です。

 私なりに「鎖なき魂ひとつ。」でエミリーが伝えたかったこと、残したかったことを考えてみました。田中さんの解説によると、エミリーは家の用事や日常生活においてとてもストイックで、一方精神世界や空想の自由を常に願っていたそうです。

 私も、私なりに「鎖なき魂ひとつ。」を追求していきたいと思います。オリジナルの詩が読みたくて英語版のThe Complete Poems of Emily Bronteを取り寄せてみたのですが、目次を見る限りこの「老いたるストアの徒」はまだ見つかっていません。

 以下の「老いたるストアの徒」はインターネットで見つけました。オリジナルの詩を紹介し、その後私なりの訳をつけてみます。

The Old Stoic – Emily Bronte

Riches I hold in light esteem,
   And Love I laugh to scorn;
And lust of fame was but a dream,
   That vanished with the morn:

And if I pray, the only prayer
   That moves my lips for me
Is, “Leave the heart that now I bear,
   And give me liberty!”

Yes, as my swift days near their goal:
   ’Tis all that I implore;
In life and death a chainless soul,
   With courage to endure.

「老いたるストアの徒」

現世的な豊かさなど、わたしにとっては何ほどのものでもない、
わたしは愛をあざ笑う、
名声への渇望はただの夢だった、
それは朝になると消えてしまう、

そして、もしもわたしが祈るならば、
わたしの唇を動かしうる唯一の祈りは
「今わたしが耐えている心を解き放ち、
そしてわたしに自由を与え賜え」

そう、わたしのあわただしい日々が終わりに近づくとき、
それこそがわたしが哀願するすべて、
生と死を耐えうる勇気に満ちた
鎖なき魂ひとつ。

訳・リュッツォ

藤木直子さんは「鎖なき魂だ!」と訳してらっしゃいますが、私は田中さんの「鎖なき魂ひとつ。」を参考にさせていただきました。

私も豊かさも貧しさも経験し、この歳になると、望むのは解放された魂くらいのものになってしまいました。心に翼を生やしたことも、そして鎖でつながれたことも経験し、あとは解き放たれること。

エミリー・ブロンテの意志を継承したいものです。

嵐が丘 (新潮文庫)

エミリ・ブロンテ全詩集

The Complete Poems of Emily Brontë 1908

投稿者: リュッツォ(Ryuzzo)

1969年生まれの男性。子供の頃から言葉に敏感で小学校低学年で文章能力を自覚しました。高校生の時には作文の懸賞で大画面テレビを(^_^;) 94年に白井俊介という筆名で薔薇族デビュー。4作品掲載。99年タテイシユウスケでBadiデビュー。5作品掲載。タテイシユウスケ名義で第9回バディ小説大賞特別賞受賞。00年代にWebサイト『調香室』に移行。2008年までサイトで執筆活動していました。その後しばらく執筆活動から離れていました。ペンネームを2018年にリュッツォに刷新し、金澤詩人賞に応募したところ、賞の候補として選ばれ詩人デビューしました。現在、様々な創作活動をしているおじさんです。瀬戸内の濃厚な遺伝子と北陸の農民のハイブリッド。 犬と植物が好きなおじさんです。G-MENには投稿したことがないのですが、どちらかというとジーメン系でぼちぼちサムソン系(^_^;) 中のおじさんは温厚な性格の坊主頭のおじさんですが、創作物はなぜか暗めのドリーミングな感じになってしまう💧

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