鏡の中の罪人

敗北の日々は延々と続く
あの、死の体験の直前の蒼ざめた日々
ヨブの柩の方角に、
あの人がいることをまだ知らぬ頃
枯葉色のナイトガウンにくるまって屋敷を彷徨うわたしは、
体温に飢えていた

コルク色まぢかに迫ったスペクトルの中、
その消えゆく空気に浸透してゆく亡霊の姿のわたしは、
繰り返される無音の日々のなか消えてしまいそうだった

青白きセント・エルモの火の守護を受けず、
闇の海を渡る船
けれどもカストルとポルックスの幻影の予感に呼ばれ、

だが幻影に終わるのはむしろ僥倖
魂は柘榴色に燃える冬のガーネット・スターに吸い寄せられた
そろそろほんとうに真空の星
真空にだけ恋い焦がれ

魂を燃やすこと、
その遠い日々
思い出せない忘却の森に潜む
あの築百二十年の屋敷の廊下に埋もれた怖ろしい鏡台

わたしの顔はスカイグレーほども青く青ざめ
背は大好きなおばあちゃんみたいに屈んでいた
坊主頭の白髪がキラキラと光り
無精髭、そこだけラヴェルのソナチネのようになまめかしく
髭の白髪が美しい

死人の、涙を流してすべてを赦された顔
罪食いに罪をなすりつけたその顔
鏡の中の汚らわしいわたしは、
ゾッとするほど、美しかった

歪んだ廊下を通るたびに
鏡台の鏡に眼差しを送り
背景のコルク色から浮き立った、
青く白い顔は陰が薄く
そろそろ本当に消えるところだった

すべてが終わる一瞬前の艶かしさ
ナイトガウンの襟をかき合わせ
わたしはうっとりと老いた自分を眺めていた

最後に与えられし音符を読み解こうと
鏡の中の宙に音を探してみるが唇は動かず
ただただ、わたしは白髪の混ざった坊主頭に見惚れていた

脱色したような顔色に刻まれた判決
去りし日々の記憶を捨て
わたしは自身の顔に高貴な罪を認めた

わたしは自ら高らかに罪状を述べ
ひたすらに判決を待った
モディリアーニの絵のように男の輪郭はしぼみ
わたしは鏡に見入っていた

北極へと向かう敗北の後にも、
まだ屍の日々があると知らずに

裁判官は判決を言い渡さず、
わたしに一瞥の瞳すらくれなかった
わたしに背を向けて、荘厳なマントの裾を引き、
立ち去って行く

彼がわたしに与えたのは、
情け容赦のない赦しだったのかもしれない
すべてを赦された後、わたしは忘れ去られてしまった

投稿者: リュッツォ(Ryuzzo)

1969年生まれの男性。子供の頃から言葉に敏感で小学校低学年で文章能力を自覚しました。高校生の時には作文の懸賞で大画面テレビを(^_^;) 94年に白井俊介という筆名で薔薇族デビュー。4作品掲載。99年タテイシユウスケでBadiデビュー。5作品掲載。タテイシユウスケ名義で第9回バディ小説大賞特別賞受賞。00年代にWebサイト『調香室』に移行。2008年までサイトで執筆活動していました。その後しばらく執筆活動から離れていました。ペンネームを2018年にリュッツォに刷新し、金澤詩人賞に応募したところ、賞の候補として選ばれ詩人デビューしました。現在、様々な創作活動をしているおじさんです。瀬戸内の濃厚な遺伝子と北陸の農民のハイブリッド。 犬と植物が好きなおじさんです。G-MENには投稿したことがないのですが、どちらかというとジーメン系でぼちぼちサムソン系(^_^;) 中のおじさんは温厚な性格の坊主頭のおじさんですが、創作物はなぜか暗めのドリーミングな感じになってしまう💧

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中