始まりの落日

決して、
トッカータのようなイントロではなかった

あの日の夕暮れを、
わたしは忘れない

父がすべてを失ったあの日の夕陽
わたしたちの、
落日の始まりだった

大の大人の男が、
膝から崩れてすべてを失くしたと、
訴えた

トッカータのドラマティックな音曲もなく、
父は失敗したと、再び告白した

あの荘厳な失敗があったから、
父はわたしの中で赦され、
美化すらされ、
神格化されたのかもしれない

結果的に、
五十年生きてきて、
あんなろくでもない男は見たことがない

それから父は、
三人で幕を引こうと、
一家心中を持ちかけた
ヤツらを笑わせたままで

それも、
もうどうでもよかったのだろう

この滅びの遺伝子を、
与えられた廃人には

わたしはその落下の始まりに、
甘美な誘惑を覚えた

落日と落下が織り重なり、
その甘やかなメロディー

まさに薄明が起こる前の、
滲んだ薔薇色

わたしは十歳で
その悦楽を知ってしまった

落日に囲まれて落下してゆく
それほどの蠱惑は他にない

あの日がわたし達の落日の始まり

父はそれから、
もう現実を写すカメラになることが出来なくなった

わたしが卒業のとき捨てた中学校の教科書を拾って
勉強しなおした
sin, cos, tan

そして、捨てられたテレビを拾ってきては
あばら家の茶の間に積むようになった

あのあばら家には、
六台の壊れたテレビが積み重なり、
六台のすべてがザーッという画面

J.S.バッハのオルガン音楽、トッカータとフーガ

投稿者: リュッツォ(Ryuzzo)

1969年生まれの男性。子供の頃から言葉に敏感で小学校低学年で文章能力を自覚しました。高校生の時には作文の懸賞で大画面テレビを(^_^;) 94年に白井俊介という筆名で薔薇族デビュー。4作品掲載。99年タテイシユウスケでBadiデビュー。5作品掲載。タテイシユウスケ名義で第9回バディ小説大賞特別賞受賞。00年代にWebサイト『調香室』に移行。2008年までサイトで執筆活動していました。その後しばらく執筆活動から離れていました。ペンネームを2018年にリュッツォに刷新し、金澤詩人賞に応募したところ、賞の候補として選ばれ詩人デビューしました。現在、様々な創作活動をしているおじさんです。瀬戸内の濃厚な遺伝子と北陸の農民のハイブリッド。 犬と植物が好きなおじさんです。G-MENには投稿したことがないのですが、どちらかというとジーメン系でぼちぼちサムソン系(^_^;) 中のおじさんは温厚な性格の坊主頭のおじさんですが、創作物はなぜか暗めのドリーミングな感じになってしまう💧

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中