The day before that day

あの、錯乱した日の前日
記憶は朧げ

カストルがあなたで
ポルックスがわたし

ずっと前は双子座だったのかもしれないけれど
大神ゼウスに叱られてしまって
二人は離れ離れになった

ひとりきりになってしまったわたしは、
あなたの面影を探して鏡に向かった

眉毛があって、
目があって、
鼻と口があって
あなたもこんなだったろうか、と

誰が誰だか、もう顔もわからなくなり
鏡を見ているうちに老いさらばえて、
自分の蒼ざめた顔が、
上品な紳士に見えるようになった

このまま老けて死滅してしまうのだろうと、
プレアデス星の方角を眺めていた

楓、揺れて
星を書き留める

これは才能なのか、
狂気なのか、わからないまま、
朽ちてゆく煤色のペンを走らせた

寒く、凍えそうで厚着をしていた
あなたと出会う三ヶ月前のとある寒い
十一月二十九日

ナイトガウンの襟をかき合わせ
寒いのに水を飲む

水を飲む
とにかく水を飲む
ゴクゴクと水を飲む

いつか出逢うあなたとのことを
滲ませるように童話に書き
あなたを忘れていた

あの時のわたしは、
前世の記憶に呼ばれていたかもしれない

空のあらゆる現象
雲、雨、雪花、峠の声

わたしはなぜこの地にいるのだろう
ふと我に返り

嘆くことすら禁止され
わたしは風景の一部に取り込まれているに過ぎない、と

この、野に返りそうな丘
草木は冬支度
ただ、風景の片鱗であることに甘んじていた
そして、風景のパズルピースであるほうがよかった

目眩だけに、溺れていた
その壮大な無言劇の錦絵が、
海馬に飾られていた

投稿者: リュッツォ(Ryuzzo)

2019年金澤詩人賞候補として詩人デビューしました。1969年生まれの男性。90年代は薔薇族とバディで小説を執筆させていただきタテイシユウスケ名義で第9回バディ小説大賞特別賞受賞。00年代にWebサイト『調香室』に移行。しばらく執筆活動から離れました。ペンネームは2018年にリュッツォに刷新しました。瀬戸内の濃厚な遺伝子と北陸の農民のハイブリッド。算命学占い始めました。 中の人は劣悪な境涯で生きてきた割には温厚な、犬好きのおじさんです。

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