髪の毛の記憶

スケートリンクにいる夢を見た
憧れだった大学のM先輩がいた

もうひとり、男子学生が
フィギュアスケートのジャンプを練習していた

M先輩はわたしに耳打ちする
あいつ、お前のこと、好きなんだって、
付き合ってやれよ 笑う先輩

わたしは夢の中で戸惑い、
けれども言うしかないと思った

わたしは勇気を振り絞って先輩に答えた
「僕はM先輩が好きです」
唇は震えていた

唇を震わせながら、
夢から覚めた

外は夜の闇が透過されて褪せてゆく明け方

あの頃は、まだ前髪を垂らしていた
あの、約三十年前の、
キャンパスのベンチ

これは現実だ

「髪、短くしたんだな」
M先輩はわたしの頭をそっと撫でた

短くした耳の上を指先で撫でた
M先輩、どうしてそんな…

三十年経った髪の毛の記憶
さっきの夢の余韻
自分の手で頭を触ってみる

今では白髪が混ざってしまった坊主頭
髪にはたくさんの撫でられた記憶がある

わたしを殴りつけた父も、
髪の毛は掴まなかった

薄くなってきたのでいっそ
と、思って頭を丸めたのが二十八

そして時は経ち、わたしは流れてしまい
この港町

スコールが頭をかすめると、
しっとりして立ち竦む
あえかな髪にはツユ雫

投稿者: リュッツォ(Ryuzzo)

2019年金澤詩人賞候補として詩人デビューしました。1969年生まれの男性。90年代は薔薇族とバディで小説を執筆させていただきタテイシユウスケ名義で第9回バディ小説大賞特別賞受賞。00年代にWebサイト『調香室』に移行。しばらく執筆活動から離れました。ペンネームは2018年にリュッツォに刷新しました。瀬戸内の濃厚な遺伝子と北陸の農民のハイブリッド。算命学占い始めました。 中の人は劣悪な境涯で生きてきた割には温厚な、犬好きのおじさんです。

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