00年薔薇族連載ゲイ小説「雨の牙」

拙作、2000年薔薇族連載作品「雨の牙」について。こちらの作品、もう救いようのない悲恋に終わる作品なのでメンタルが強い時に読んでいただきたいのですが、原稿用紙100枚の壮大な悲劇を薔薇族に投稿し、薔薇族の方でも作品のクオリティを買ってくれました。しかし100枚となると一度で掲載しきれなくて連載になってしまう。

エロいハッピーエンドで終わる短編が多く送られてくる中、薔薇族もなかなか掲載に踏み切れなかったようですが、捨てるに捨てられない壮大な悲劇だったもんですから、編集部も2年間、掲載のタイミングを考えてくださったようで、97年に執筆した作品ですが2000年にようやく日の目を見ました。

この作品の掲載に時間がかかってしまったもので、わたしは「ボツなのかな?」と思ってBadiに投稿するようになっていたんです。この作品がもっと早くに掲載されていたら、Badiに送って掲載された作品も薔薇族に送っていたのかも…。

では以下、一部伐採です。

 勇一は、竜二の全身を舐めるように見た。竜二のもう片方の腕は下半身を覆ったタオルケットの中に礼儀正しく突っ込まれていた。勇一はそれをそっとはがしてみた。すると、竜二の手は自分自身の萎えたぺニスを握っていた。勇一は笑った。まただ。彼は思った。彼はこの光景を毎晩見ていた。彼は竜二の胸を揺すった。

「なんだよ…」

「ねえ竜二、前から気になってたんだけど、どうして竜二は自分のちんちんを握って寝るの?」

「ん? 手が淋しいんだよ」

彼は目をつむったままで眠たそうに言ったが、照れ笑いを浮かべていた。

「いつもそうやってるの?」

「ああ、小さい頃からの癖なんだ」

「変なの…」

「ははは…、うるせえなあ、なんか落ち着かねえんだよ、手が」

「それじゃあぼくのちんちんを握ればいいじゃない」

「へへへ、それもそうだな」

 勇一は竜二の手を自分の股間へ運んだ。

「これでもう淋しくないでしょ?」

「ああ」

「朝まで放しちゃダメだよ」

「はいはい、わかりましたよ」

 しかし次の朝目が覚めると、勇一は竜二が彼自身のぺニスをまた握っているのを発見した。彼は嫉妬した。どうして自分のではダメなのだろう? 自分のでは淋しさがまぎらせないのかな、と。毎晩同じことを試してみたが徒労に終わった。いつも朝が来ると、竜二は自分のぺニスを握っているのだった。勇一はその奇妙な光景を目にする度、竜二って変だなと思った。

 ふたりが知り合ってからちょうど一ケ月経ったころだった。九月に入ったばかりのある晴れた日曜日、勇一は下高井戸のマンションに帰ってセミダブルのベッドを運び出した。つぶれた湿っぽい煎餅布団にうんざりしたからだ。彼は運送屋に指示して部屋からベッドを出させた。そして玄関を出ようとして何気なく部屋の中を振り返った。部屋の中はすっかり空っぽになっていて、そこはもう人の住む所とは思えなかった。彼は運送屋を下に待たせ、残りの荷物をかき集めた。

 彼は部屋を引き払う決心をした。竜二は一瞬驚いたが、

「お前がすることなら、俺はなんだってかまわないぜ。どっちみち一緒に暮らしていたようなもんだしな」と笑って言った。勇一は、その笑顔を見て自分の決断に間違いはなかったと確信した。

 その晩、勇一はマンションから持ってきたCDを祭りの露店でも開くように畳の上に並べて整理した。竜二はその様子をそばで眺め、CDを一枚手に取って首をかしげた。

「こんなに持って来たら邪魔かなあ?」勇一は申し訳なさそうに言った。

「うんにゃあ、そりゃあかまわないんだが、お前、読むだけじゃなくて聞くこともできるんか、英語?」と、時々出る九州訛で訊いた。竜二のぱっちりとした二重瞼の下では黒々と澄んだ大きな瞳が好奇心旺盛な子供のように光っていた。勇一は彼の目が好きだった。

「ねえ、竜二の目ってどうしてそんなに透き通っているの?」

 勇一は竜二の頬を両手で包み、それから瞼をそっと指でなぞった。

「どうしてって…。うーん、俺の目って透き通ってるのかなあ」

「ほんとにきれいな瞳だよ」

「そりゃあたぶん、お前ばっか見てるからだよ」

「バカ…」

 勇一は竜二の首に腕を回して口づけた。竜二は勇一の体を包み込むように抱いた。竜二の体にすっぽりと包み込まれた勇一は、そこが彼の本来の居場所のような気がした。それは、彼が東京に出てきて以来初めて感じる安らぎだった。彼はやっとできた居場所を愛撫した。彼はもう他に居場所は要らないと考えた。

「ねえ竜二、ぼくといて幸せ?」

「当たり前だろ」

「ぼく、ずっとここにいてもいいの?」

「お前がいたいんなら、いつまでだっていいぜ」

「ぼく、会社を辞めようと思うんだ」

「なんだよ、いきなり」

「ぼく、竜二の世話をしたいんだ」

「今でも十分世話になってるぜ」

「もっとしたいよ。ねえ、ダメかなあ」

「お前が言うことなら何でもOKだぜ。お前一人くらい俺が食わしてやるよ」

「ほんと!?」

「お前こそ俺なんかといて幸せなのかよ」

「どうして?」

「俺、お前と違って頭悪いしよ」

「関係ないよ。ぼく、竜二のこと誇りに思ってるよ」

「なんでだよ…こうするからか?」

 竜二は意地悪く笑いながら勇一の首筋に吸い付いた。勇一は身をのけぞらせた。竜二は彼をベッドの上に運んだ。ふたりは体を重ねた。するとまた勇一の細胞が時を刻み始めるのだった。

 殺風景だった竜二の部屋はすぐに勇一の色に染められてしまった。勇一は植物が好きで、サボテン等の観葉植物から色とりどりの花を付ける鉢植えの草木を集めていた。また、彼は街で美しいキャンドルを見つける度に買わずにはいられなくなった。ピラミッド形のキャンドルやボール形の押し花キャンドル、そして側面に金彩を施したキャンドルを部屋に飾った。彼は今まで自分のそういった嗜好に気が付かなかった。自分が同性愛者であることを隠そうとする機能が心のどこかで働いていたため、彼が本来持っていた美しいものへの憧憬を押し殺していたのだろう。それが竜二と暮らすことによって蘇ったのだ。人を疑うことを知らない竜二の透き通った瞳と見つめ合うことで、勇一の目を覆っていた猜疑心というもう一枚の網膜が消滅してしまったのだ。

「それにしても見違えちまったな」

 竜二は、突然色彩があふれてしまった自分の部屋を見回して言った。

「こういうの嫌い?」

「俺はもともと部屋なんて気にしねえからいいけどよ、人が見たら何て言うかなあ」

「女っぽいかなあ?」

「ちょっとな」

「イヤ?」

「なに拗ねてるんだよ。俺、お前のこと好きだっていつも言ってるだろ」

 竜二は勇一を抱き寄せて頬にキスした。彼は勇一のすべてを受け入れた。

 変わったのは竜二の部屋だけではなかった。勇一の生活も一変した。彼は仕事を辞めて竜二の世話に専念した。働くといえば生活費の足しにするため近所の塾でワープロ打ちのアルバイトをするだけだった。彼は竜二の世話をすることに生きがいを見出だした。これまで無縁だったヘルメットや作業着も今ではすっかり馴染みのものになった。毎朝目覚めると、勇一は竜二に朝食を食べさせて送り出した。竜二は朝食を食べ終えるとベッドに腰掛けて必ず勇一を呼んだ。

「おーい、靴下」

「はいはい」

 勇一は竜二の前に座って片足ずつ靴下を履かせてやった。これは毎日の儀式になっていた。それをしてやらないと、竜二は拗ねてなかなか部屋を出ようとしないのだ。たとえきちんと儀式を終えたとしても、竜二はすぐには部屋を出なかった。彼は玄関先で勇一に何度もキスをねだった。

「早く行かないと遅れちゃうよ」

 勇一が急かしてはじめて竜二は部屋を後にした。勇一はわざと素っ気なく彼を送り出すが、実は彼が部屋を出たあとでこっそりドアを開け、彼の後ろ姿が消えてしまうまでずっと見守っていた。

 勇一は竜二が出かけた後、竜二が脱いだシャツを洗濯籠から拾い上げて鼻に押し当てて匂いを嗅いだ。彼は竜二の臭いが好きだった。彼がいない間も、そうやって彼を感じていたかったのだ。彼はその後家事を終えると塾のバイトにゆき、午後いっぱいそこで働いた。彼は塾の英語講師として働くことを勧められたが、家に帰ってまで翌日の授業の予習をするのは嫌だったので断った。彼は竜二と過ごす時間を何よりも優先させた。

 ふたりはいっしょに暮らしはじめてから連れだって外出することがほとんどなかった。たまにビデオをレンタルして観たり、まだ強い陽射しの下公園を散歩することはたまにあったが、それ以外は部屋に籠っていちゃついていた。休日の過ごし方も同じだった。ただ戯れの時間が長くなるだけだった。

 勇一は本来、旅行が好きだった。しかしそれも行きたいとは思わなくなった。見知らぬ場所へ行くと、たとえそれが竜二といっしょだったとしても、竜二が風景と同化して小さく見えるのではないかと不安に思ったからだ。

 そして彼は昔読んだ本も大切にしていたCDも捨ててしまった。今の彼には自分自身の物語を語ることができるし、竜二のために体で音楽を奏でることができるからだ。

 日を追っ夜が長くなっていった。竜二と勇一はベッドサイドにキャンドルを点して愛し合うようになった。彼らは毎晩キャンドルの灯りに包まれて体を重ねた。勇一は疲れきって眠っている竜二の裸を見るのが楽しみだった。キャンドルの灯りに照らされた竜二の褐色の肉体は、ふくよかな赤みをさして美しかった。勇一は突然彼のことがいとおしくてたまらなくなり、この五つ年上の大柄な男の体を撫で回すことがよくあった。そうやってふたりに幸せな日々が続いた。しかしそれは長くは続かなかった。

続きは電子書籍で☺️

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投稿者: リュッツォ(Ryuzzo)

1969年生まれの男性。もう50歳の爺です😭 94年に白井俊介「真夜中の雨」で薔薇族デビュー。薔薇族4作品掲載(一作品は連載)。99年タテイシユウスケ「調香師」でBadiデビュー。Badiは5作品掲載。タテイシユウスケ「みずぎわ」で第9回バディ小説大賞特別賞受賞。00年代にWebサイト『調香室』に移行。2019年リュッツォ、「A Cricket - コオロギ」で金澤詩人賞候補。 犬と植物が好きなおじさんです🙂 創作物はなぜか暗めのドリーミングな感じになってしまう💧 中の人はダメダメで気分のムラがあるやっぱりダメダメなオヤジです😭 時々ご乱心遊ばしますが放置しておくとじきにおさまりますので😓

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