96年薔薇族掲載ゲイ小説「ほほにかかる涙」

みなさん、こんにちは🙂リュッツォと申します。複数のペンネームで薔薇族やBadiといったゲイ雑誌で小説を書かせてもらっていました。今はリュッツォに統一しています。今回ご紹介する拙作「ほほにかかる涙」はイタリアのカンツオーネのタイトルから取った、ハッピーエンドながらちょっとビターテイストが入っている薔薇族掲載ゲイ小説です。

96年という比較的薔薇族の後期に当たりますが、まだまだ薔薇族に活気があった頃に掲載していただいた作品になります。一部を抜粋しますので良かったら電子書籍の方もお願いしますね。Kindle Unlimitedにも参加していますので♪

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 その頃の勇作は本当に充実していた。仕事もうまくいっていたし、会社での人間関係においても信頼を集めていた。週に一回ジムに通うおかげで、体はかたい果実のように張りが出てきたし、ゴールデン・ウイークにメキシコで灼いたせいで表情が精悍に見えた。

 それまでの勇作といえば、知的で怜悧な、いかにも繊細といった感じの青年で、決してこの世界でウケるタイプではなかった。少年時代から音楽と文学を好み、根が純粋だったがゆえに、いつも人に傷付けられていた。そんな自分に嫌気がさして、二十代も終わる頃、長年人生を共にした自分自身に訣別することを決心した。

 体が逞しくなるにつれて、勇作は自分でもびっくりするほどもて始めた。初めのうちはそんな自分に酔い知れた勇作だったが、数々の夜を、様々な男達と過ごしても、かつて自分が夢中になった小説の中にみられる壮大なロマンスは、どこにも見付けることができなかった。男達が求めているのは自分の体だけだという事実にまたしても傷付けられた勇作だったが、最近では鈍感になったのか、あるいは諦めがついたのか、それ程気にもならなくなった。

 だから、正雪と知り合ったときも、砂漠の中で拾い上げた、一粒の砂ほどの出会いとしか思わなかったのだった。

 梅雨に入ったばかりのある夜、勇作がいつものように新宿二丁目の行きつけのバーのドアを開けると、カウンターで頬杖をついている正雪の姿が目に入った。勇作がカウンターに座り正雪の顔にジッと見入っていると、それに気付いたのか、正雪も時々勇作の方をちらちらと窺がっていた。長雨で湿った空気のせいか、正雪の長い睫毛や、シャツから覗いた喉元を見ているだけで、勇作は、肌に残る日灼けの痛みの上に、肉体の渇望を感じた。

「ケンちゃん、あの端の子に何か奢ってやってくれないか」

 カウンターにいたケンジが、正雪のところへ行って何か囁いた。正雪は親指の爪を噛みながら勇作の目を直視し、二、三度ゆっくりと瞬きしてみせた。その甘ったるい仕種を見ているだけで、勇作は欲情し、喉の渇きを覚えたのだった。

「じゃあ、テキーラ・サンライズをちょうだい。それから、せっかくだから、隣に行きたいって、あの人に伝えて」

 正雪は、わざと勇作に聞こえるように言った。勇作は隣の椅子を少し引いて、正雪を促す。

「そっちが勝手に奢ったんだから、お礼なんて言うつもりはないけど、名前くらいは教えてあげる。僕は正雪。『ただしい』に『ゆき』。あんたは?」

「オレは勇作。勇気の『ゆう』に『つくる』。君、いくつ?」

「退屈な質問だね。まあ、いいけど…。二十四才です」

 そう言いながら、もう一度だけパチリと大きく瞬きをした。正雪のつややかな睫が揺れる度、勇作の体内で欲望がむくむくと沸き上がる。

 コイツなら、恋人にしてもいいかな…。一瞬そう思った勇作だったが、この街には似合わない純情な考えを、せせら笑いながら打ち消した。

「どうして僕のこと誘ったかなんて、そんなヤボなコト聞くつもりはないけど、どうせそういうコトなんでしょ? これ飲み終わったら、ココを出ない? いい店知ってるんだけど…。もっとオジサンとオハナシしたいし…」

「おい、オジサンって、オレはまだ三十一だぜ」

 勇作が不平を言っている間に、正雪はテキーラ・サンライズを一気に飲み干し、振り向きもしないで店を出て行った。勇作はあわてて正雪に追い付く。雨の中を並んで歩く間中、正雪は終始好奇心一杯な目で世の中を見ていた。そういえば、オレにもこういう時代があったっけ…。勇作は、正雪の背中に優しく腕をまわして守ってやりたい衝動に駆られたが、深呼吸をしてその手を押さえた。どうせ一晩限りの関係だ、情けが何の役に立つだろう。

 そんな勇作の気持ちに気付くはずもない正雪は、路地を折れたところでふと立ち止まり、

「この下だよ」と、軽い足取りで階段を降りて地下に向かった。

 正雪に連れられて入った店は満員だった。店内は男達で満員電車のように混み合っていた。二人はグラスを片手にフロアーに佇んだ。人込みに押されて二人の体は密着し、自然と勇作が正雪を抱きよせるかたちになる。

「この店、落ち着くの。いつも混んでて、誰にも気を使うことないし、店の人にも邪魔されなくて済むでしょ…」

 体が触れ合ううちにねばっこい欲望が湧きだし、勇作の鼓動は速くなった。正雪の足が太ももに触れると、勇作の鼻息は荒くなり、緊張したせいで脇の下に汗をかいた。それを見透かした正雪は、勇作の骨ばった手にしなやかな指をからめ、潤んだ瞳で勇作の目をじっと見つめた。勇作はカッと体が熱くなり、刺激されいたいけな少年のように勃起してしまう。

「どうするの? 僕、そろそろ電車が終わるんだけど…、口説くつもり? それともこのまま帰らせるの?」勇作は言葉を発することができなかった。正雪の抗しがたい妖しい魅力に翻弄され、冷静さを失っていたのだ。

 正雪は勇作の唇を人指し指でなぞりながら、

「まさか、今頃になってそんなこと言わないよね…。だって、最初からソノつもりだったんでしょ?」と上目遣いに言い、唇に当てた指を、あご、喉、胸と、少しずつ下ろし、そしてついには勇作のいきり立った股間を撫でた。

「ほら、ヤッパリ…」そう言って意地悪な視線を投げ掛けると、正雪は何も言わずに勇作の手を引いて、人込みをかきわけながら店を出た。

 マンションの前でタクシーを降りる頃には、勇作の欲望は爆発寸前まで高ぶっていた。車を降り、傘もささずにマンションまで走った。勇作が鍵を開けると、二人は転げ込むようにして部屋に入り、無言のままでベッドに倒れ込んだ。

 勇作は剥ぎとるように正雪の服を脱がせると、自分もネクタイを引き抜き、スーツもシャツもいっしょくたに放り投げた。

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青年と美青年の甘いロマンスになります。よかったら電子書籍お願いします☺️

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ほほにかかる涙: 薔薇族96年3月号掲載作

投稿者: リュッツォ(Ryuzzo)

1969年生まれの男性。もう51歳の爺です😭 94年に白井俊介「真夜中の雨」で薔薇族デビュー。薔薇族4作品掲載(一作品は連載)。99年タテイシユウスケ「調香師」でBadiデビュー。Badiは5作品掲載。タテイシユウスケ「みずぎわ」で第9回バディ小説大賞特別賞受賞。00年代にWebサイト『調香室』に移行。2019年リュッツォ、「A Cricket - コオロギ」で金澤詩人賞候補。 犬と植物が好きなおじさんです🙂 創作物はなぜか暗めのドリーミングな感じになってしまう💧 瀬戸内地方に住んでいます。 算命学という占いもやっていますのでお気軽にお申し込みください☺️よく当たると評判です🙂

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