The day before that day

あの、錯乱した日の前日
記憶は朧げ

カストルがあなたで
ポルックスがわたし

ずっと前は双子座だったのかもしれないけれど
大神ゼウスに叱られてしまって
二人は離れ離れになった

ひとりきりになってしまったわたしは、
あなたの面影を探して鏡に向かった

眉毛があって、
目があって、
鼻と口があって
あなたもこんなだったろうか、と

誰が誰だか、もう顔もわからなくなり
鏡を見ているうちに老いさらばえて、
自分の蒼ざめた顔が、
上品な紳士に見えるようになった

このまま老けて死滅してしまうのだろうと、
プレアデス星の方角を眺めていた

楓、揺れて
星を書き留める

これは才能なのか、
狂気なのか、わからないまま、
朽ちてゆく煤色のペンを走らせた

寒く、凍えそうで厚着をしていた
あなたと出会う三ヶ月前のとある寒い
十一月二十九日

ナイトガウンの襟をかき合わせ
寒いのに水を飲む

水を飲む
とにかく水を飲む
ゴクゴクと水を飲む

いつか出逢うあなたとのことを
滲ませるように童話に書き
あなたを忘れていた

あの時のわたしは、
前世の記憶に呼ばれていたかもしれない

空のあらゆる現象
雲、雨、雪花、峠の声

わたしはなぜこの地にいるのだろう
ふと我に返り

嘆くことすら禁止され
わたしは風景の一部に取り込まれているに過ぎない、と

この、野に返りそうな丘
草木は冬支度
ただ、風景の片鱗であることに甘んじていた
そして、風景のパズルピースであるほうがよかった

目眩だけに、溺れていた
その壮大な無言劇の錦絵が、
海馬に飾られていた

Watashiみたいな人

いつものように幕が開き、と突然歌が聞こえる

恋の歌うたう私に届いた知らせは
黒い縁どりがありました

ちあきなおみの喝采の出だしが夢に出た
真夜中に目を覚ますと、
パジャマは汗でびっしょり

AM3:54にあなたにLINEを送った
怖かった

だけど、どうしても喝采が聴きたくて
スマホを取ってYouTubeで喝采

わたしのおじさんは、
そんなおどろおどろしい歌、
聴くなって言ったけど、

じゃあ、
どうしてもっと早く、
迎えに来てくれなかったの?
47階にいたのに

わたしがなんて長いこと眠り姫をしている間
あなたは何をしていたの

わたしが喝采を浴びることはなくても
あなたのためにせめて、
歌くらいはえらびます

DJがAgeHaでちあきなおみをかけた
それもいいじゃない?

一人Janetで踊るだけの夜でも
マイケルはデスマスクになってしまったけれども

わたしの顔に刻印された判決はリュッツォ
傷なしでは存在し得ないエメラルド
地球の色

おい、こっちにおいで
部屋に居たいよ、本読みたいよ
わたしみたいな人、
鏡花全集の中にいっぱい出てくるよ

おい、こっちにおいで
バリカンかけてあげるから

ねえ、まだお薬飲まなきゃいけないの?
螺旋のどこが壊滅してるんだろうね
福音はあなただったのかな

わたしの福音は、
ク・ル・シ・イ、で、

その黒魔術を解く解があなたの名前だと信じてた
ちゃん付けで呼んでたね
だけど、そうじゃなくなった

わたしみたいな人はいないのかもしれない
だって、皆んながおかしいと言うので。

だけど、居たと思うな
この歴史上、
Watashiみたいな人、
居たと思う

TOXIC

ねえ、リュッツォさん、
医薬品の動物実験に使われる犬種はビーグルに決まっているのよ。
こんな話があるの、
あるビーグルがね、
毎朝決まった時間に注射を打たれていたら、
そのうちに、
看護婦さんのヒールの音が聞こえてくると、
条件反射で檻から前脚を差し出すようになったんですって。

鬼北吹く頃、わたしは凍えながら夢見ていた
ブラック・クリスマスローズの蕾を、
指先で摘んでは下から覗き込み
庭着の襟をかき合わせて寒がり
春を望んでいなかった

山手の上の方では、
虎落笛さわさわと、
風の色、緑を滲ませ

その穏やかになりゆく風の中、
青い車がやって来た
わたしを乗せて、
減ずることもなく、
増ずることもない、
緑の道を行く頃には、

藤色の毒に接吻した

たちまちわたしは風の中の蝶々

水晶

日曜日のクリスタルな、
青空の透明感

凝結した結晶のような空
空が壁みたいだと言ったのは、
ボウルズだった

光の下、
この細い小道をかきわけて、
あなたがやって来るかと思うと、
ぞくぞくしちゃう

あなたはこの小道を、
かきわけて来るの
かきわけて、かきわけて、
やって来るの

それから、
わたしたちは水晶になって

子供の頃に、
殴りつけられて、
傷だらけになってしまった体を、
人にはさわらせなくなったわたし

四角形の水晶を羽交い締めに縛って、
あなたとなら結晶になれる

水晶だって、
ハチミツを塗って舐めてみて

色彩のない世界だって
アンフラジャイル

たったあれだけの接点で、
頭が爆発しそうになるの

もう、壊れものではない、
壊れたりはしない

傷つけられても、
もう壊れたりはしない
あなたがいなくても

BjorkのBiophiliaのクリスタラインを聴いて思いついた詩です。

月光

あなたが太陽なら
わたしは月の光になる
そうすればわたし達の世界は暗黒から逃れられる
それは陰陽成就でもある


星のミケーレが教えてくれた
小汚い乞食より着飾った乞食のほうがもらいが多いと

(ユーグ・ルベル「ニキーナ」より)


わたしがレモン色の衣を脱ぐから
あなたがキラキラの影を着させて


あなたは紺色のシーツが狭いって言ったけど、
わたしはパステルなら何でも良いからまかせると言った
あなたが選んだのはパイル地だった


麗しきワルツで旋回して
その引力で破綻して
星を粉々にしましょう
そうすればわたし達の世界はいつまでもBrightだから

カノンを壊して

G線上のアリアで交わされた契り
もしくはパッヘルベルのカノンに刻まれた記憶
それらを読み解こうとして謎だらけ

それならばいっそ、それらを破棄して
新しい錨をかすらせる
もしもそれで雨が降るなら

亡き王女のためのパヴァーヌで泣き叫び
こちらもラヴェルのボレロで真夜中に虹をかけて

それらのアンニュイにこぼれた涙は
河へと浮かんで海にたどり着くかもしれない

モーツアルトが私の子守歌にならなくたっていいじゃない
産まれたばかりの新しい子供達の、望郷の歌を聴かせてよ

パッヘルベルのカノンが入っているバロックアルバム。

パッヘルベルのカノンはかなり現代解釈が入っていて、こちらのアルバムでは現代解釈を取り払ってオリジナルの演奏をしています。

水の方位(Direction of Water)

あなたは西の春一番
冷たいわたしは北の雪明かり

生まれた日の方位は選べない
ですから、向かう方位ももちろん違います
はっきり言ってしまえば、思いやりのディレクション
もっと言えば、愛のディレクション

勝手な思い込みの星をばら撒いて
時々だけ二人で一緒に南へ祐気取りして

あとはてんでばらばらで
自分勝手な思い込みでしか世の中成り立たないじゃない

最終的にどっちを向いているか
同じベッドの上でも二人は別の役柄を演じている

川をさかのぼる魚もいれば川を下る魚もいる
あなたが川ならわたしは魚になる

わたしたちは水性同士でもある
陰陽五行に油を注いで
高純度な豊潤のトッカータで乱脈して
二人で蒸気になって方位を失ってしまいましょう

生まれた日の方位を捨てて
向かい行く方位を捨てて
水になって蒸発して
湿度になって%で表示されてしまいましょう