水に溺れて

喜雨に喉が乾く
雨が降ると喉が乾く

わたしは水を飲む
ごくごくと何杯でも水を飲む

飲み過ぎて飲み水に溺れてしまうほどに飲む
睡眠薬の副作用で水中毒になり
ひたすらに水を求めて水を飲む
水に溺れるほどに

夕暮れの薄い陽射し
ヴァイオレットにきらめくグラス

薄花色の水、
菫色の水滴の群れが、
喉を流れて川になる

わたしは呪いの川になり、
そしてまた喜雨に苦しみ
喜雨のかぐわしさに溺れる

雨の日の水恋し
水無しでは生きられず
水に溺れる

薄い薄鼠色の綺麗な水
透明に光って
光を通す

蛇口から出る
芳しく懐かしい水

濁流にはならず
細胞を潤す
喜雨の水恋し

閉園

暮れる前の水浅葱
桜貝のうろこ雲

その下
桜の園の聖域で
今年も宴が執り行われた

どこからともなく集まる
老若男女は酔いに染まり

目は赤く
頬垂れて
がなり声

宴に踊る
あぐらの男
姉さん座りの
亜麻色の髪

桜が散ると
神隠し
新緑の歌で
閉園す

新しき尋ね人
追われし落人

木々が見守る
宴の園
上弦の月、
流れ行く

読む、読まれる

欠けた半月が
また半月に戻り
そしてまた満ちてゆく
陰暦でごさる

イマはムカシ、
洗濯洗剤の空き箱を集めては
組み立ててお城を作る男の子がいた
男の子はお城の中にこもっていた

小学校にあがり、
作文の課題が出た

赤い鳥が宝箱の鍵をくわえて飛んで逃げてしまいました、
この物語の続きを書きなさい、
紙が足りない生徒はいくらでもあげます

男の子は薄暗くなるまで書き続けた
男の子が六枚目を要求した時、
先生は言った、
「そろそろ終わりにしてくれないかな?
みんな帰っちゃったよ」

読むということは、
作者への最大の冒涜にあたりうる

わたし自身、
読まれることに抗議したことも

しかし、

デュラスと鏡花に懇願した
お願いです、
跪きます、
あと少し冒涜させてください
それでも冒涜させてください、と

わたしにとって、もはや、
書くことは瀬戸内の神々への奉納になった

故郷、美しき厳島に宿る
極彩色の神々

書くことは舞踊に似ている
足を踏みならし
血が沸き立つ舞踊

読まれることは、
供養されること

苔むす石になり
転がってはすり減る石になること

真似

メタモルフォーゼを真似て
メタモルフォーゼを真似て

変身、変身、変身
華麗なる綱渡り
華麗なるメタモルフォーゼ

変わりゆく変化のメタモルフォーゼ
メタモルフォーゼを真似て
メタモルフォーゼを真似てきた

したくてした改革と、
しなくちゃならなかった変革
それはまた別だけれど
真似して生きてきた

ずっと真似て真似て真似続け
そして出来たのが

白髪混じりの坊主頭
犬の召使いの
リュッツォ爺さん

新品のメタモルフォーゼはいずれ使い古され
新時代に引導を渡される

それでも、
メタモルフォーゼを真似て
メタモルフォーゼを真似て
変身を真似て変わり続ける

生きている証のメタモルフォーゼ
メタモルフォーゼは、生きていく証

怪物

その怪物は時に現れ
わたしを嬲りものにする

嬲りものにされたわたしは
喚き散らし
罵り
戦犯の墓に唾し

そしてわたしが怪物に成り果てたと
ゾッとして蒼ざめた顔を鏡に見る

色褪せた舌を噛むことも出来ず
口を噤む

怪物を懐に隠しては書き
怪物に突き動かされては書く
その怪物はわたしを懐にかき抱き
異空へと連れ去る

磁石

磁石を足枷に
真夜中の砂浜
足を引きずって、
歩き回って乾いた鉱物を集め
足が重くとも
鉄屑を集め

それらを星にして
空に飾る

星に満ちた夜空
星に満ちた昼の空

世界は星に満たされ
ゆっくりとした光に満ちる

その光の中で
すべての稜線は消え失せて
ただ、
一つの大きな星世界の煌めきになる

如月

寒い夜の外灯が 星のきらめき薄れさせる夜
空に掛かった薄い雲 かすむ満月のメタリックな色

そんな晩にあなたに出会う
如月のキリギリスみたいな金色の音色

大切なひとがいるのは知っているけど
もう 宛名を書けない手紙は綴らない
最後の行までしたためて
最後の最後に封をして
いつもじゃない自分を走らせて
あなたに言葉を届けたい

(伝説のBLサイト『Lover’s Concert』さま150万ヒット逆キリプレ)

この詩は、もう15年以上前になりますかね?大変仲良くさせていただいたBLサイト『Lover’s Concert』さんの150万ヒットのお祝いに書いたものです。

「百万本の薔薇よりも」と言えば古参のBLファンの方ならどなたもご存知かと思います。オンライン上のお付き合いでしたが、繭夢さんとはよくメールのやり取りをする仲でしたが、今は音信不通😢 お身体が優れないというメールをいただいて、「お大事に」という内容のメールを返信したのが最後だったと記憶しております。

 表に出すのはどうか迷いましたが、30代で書いた恋愛詩として残しておきます。