お墓

その苦しみを
お墓に入れてしまいなさい
お墓とはそういうものです 

皆さんお願い事なんかして、
お墓は神社のおみくじじゃありません

父が騙されたのは五十の時
借家に入るのが嫌で、
仏壇に入った

その時はまだ、
お墓を作ることが出来なかった

今はお墓になっている

父は狭い世間で肩幅が小さくなって、
お墓みたいな体型になった

年金の通知が来たのはお葬式の日

わたしは大人がびっくりする程
ハサミを使うのが上手な子だった

肩身が狭く肩を屈め
崩れた体型になった父を

チョキチョキと切り取って
お墓にしたのがわたし二十二才

そのお墓はハサミで切り取りました

水晶

日曜日のクリスタルな、
青空の透明感

凝結した結晶のような空
空が壁みたいだと言ったのは、
ボウルズだった

光の下、
この細い小道をかきわけて、
あなたがやって来るかと思うと、
ぞくぞくしちゃう

あなたはこの小道を、
かきわけて来るの
かきわけて、かきわけて、
やって来るの

それから、
わたしたちは水晶になって

子供の頃に、
殴りつけられて、
傷だらけになってしまった体を、
人にはさわらせなくなったわたし

四角形の水晶を羽交い締めに縛って、
あなたとなら結晶になれる

水晶だって、
ハチミツを塗って舐めてみて

色彩のない世界だって
アンフラジャイル

たったあれだけの接点で、
頭が爆発しそうになるの

もう、壊れものではない、
壊れたりはしない

傷つけられても、
もう壊れたりはしない
あなたがいなくても

BjorkのBiophiliaのクリスタラインを聴いて思いついた詩です。

柩の部屋

うえしたの歯で舌を噛んだ痛みで、
目が覚めた

買ったばかりのトラウザーズを履いて、
火あぶりにされる悪夢

目が覚めて、夢だとわかるともう怖くはない
汗塗れのパジャマを着替える

南中するのはアンドロメダ星雲
庭の楓の葉が落ちていたかどうか、
記憶にない

もう、
わたしには夜しかなかった
昼日中は、わたしではないのだから

あの夢で、
火あぶりにされるくらいならいっそ
と、舌を思い切り噛んだ
そのときの舌の激痛で夢から覚めた

首を絞められて、
抵抗しようと頭突きをしたら
壁に頭を打ち付けていたこともある

眠っている間に、
ベッドも犬も蹴り殴り

眠っている間、
テーブルに、フォークとナイフを、
ウェイターのごとく、
セッティングしたこともある
家族三人分

祖母、
母、
わたし
さすがに犬のはなかった

水のせいかもしれない、
亡き王女のためのパヴァーヌのせいかも、
しれない

この柩の形をした部屋は、
プラネタリウムのようなマボロシを映し出す

過ぎ去りし人が白い薔薇を配り、
栄光の都市の面影が空洞に

夜になると、
その麗しき夢、
わたしの頬はこけ、

瞼の下、
睫毛瞬き、
瞳が煌めく

シャコンヌは恋の歌

チェックのカーテンの織り布の中にすら
あの医師の青さが縫い込まれている

子供たちが遊ぶ公園のベンチのそばを、
犬とさすらうお爺さん
坊主頭の、リュッツォ爺さん

それは十二月の、
大晦日が待ち遠しいほどほどの頃合いに、
シャコンヌ越しに見る昼間のカエデの宵待ち月

枯れ果ててしまった冬の楓
池には忌々しきスイレン
主の創造はどこまで連なるのか

生命が、
一編のシャコンヌのごとく響くこの港町

「上見て」
ライトをわたしの瞳に当てる医師

わたしは従う、
遠し人に、従う
あの日のあの医師に

もう会えないのか、
また会えはしまいかと、

老いた足を引きずって町をさすらい
朧げな記憶、肖像画、

恋に溺れて恋をする
絶望的に一人の恋は、
絶望的なカタオモイ

愛は自分を認識した時に体現される
愛は自分を娶った時に現実になる

わたしがここまで歩いてこれたのは、
なぜだろう

あなたの残像を求めてきた

あなたへの、
腹立たしいほど真っ赤な恋に頬を染め、
怒りに満ちたヴァイオリンの弦

薬を飲んでまで生かされた
愚かなわたしの、
愚かな武勇伝

ろくに話すチャンスすら与えられなかった、
気高い恋

もう会えないという絶望的な苦しみに、
光が射し

ヴァイオリンの弦は、
わたしの怒り狂った恋を歌う
あの人の残像をまだ拗らせている

バッハ、バイオリンソナタ&パルティータ

どちらも演奏はギドン・クレーメル氏。若かりし頃のクレーメル(右)と晩年のクレーメル(左)。このアルバムの中にJ.S.バッハのシャコンヌが入っています。

Family Tree

マジェンタ、
シアン、
イエロー、
色彩が織りなす家系図

生きとし生けるものは、
螺旋の過去帖を持つ
プリズムを通過する色彩のスペクトル

DNAに刻まれた歴史の長さの不穏な均整
バイブルの中で絡み合った悪戯の配色

始まりは海の底だったのか

エミリー・ブロンテの鎖なき魂ひとつは、
血脈みゃくと果てしなく
三劫のかなたを超えて往来す

夜と昼はほんとうに繰り返してきたのだろうか

犬って進化の極みじゃなかろうか
他種を信じてすべてをまかせ、
操ろうとまでする

わたしの過去帖は何冊あるの?
イキトシイケルモノと同じだけの、
書棚から溢れる、
おびただしい記号

見覚えのある背表紙
わたしはそっと掴み取る

わたしが受け継ぐ、
鎖なき魂ひとつ、ここにありと

わたしはその本を書棚に戻した
この屋敷の床が筍で抜ける頃、
検死に来た警察官が本を抜き取るかもしれない

鎖なき、魂ひとつ、そこにあり

CHANEL No.5

調香師さん、調香師さん、ひとつ伺っていいですか

シャネルの5番って、世界初の化学合成の画期的な香水なんですってね?
本の受け売りですが

リュッツォさん、リュッツォさん、
そりゃ確かにそうなんでがすがね、

例えばクラシックの印象派と言えば今ではドビュッシーしか知らないでしょ? 

でもあの時代には、他にも印象派の作曲家がたくさんいてね、
ただ現代に残らなかっただけなんですよ

ただそれだけの話しです

あの頃にはそういうムーブメントがありました
それと同じです

マルーン、マホガニー、檜皮色、
柿色
オレンジ色の飴玉だって

すべては融和した地球の色

ココロノモリ

ー 「衝動的な妄執 (愛) 」ダライ・ラマ14世

わたしの中には森がある
心にあるんだか
ハートにあるんだか
頭ん中にあるんだか
知らないけど

雨が降っている、森の中で

この爪先の傷は、
わたしの暗闇が作り上げた暗闇の、
森に過ぎないのかもって思えることがある

そんな傷はお墓に入れちゃって
般若心経をあげとけばいいんじゃないかって

心の森の暗い栄光

でもそうじゃない時もある
どっぷりと森に浸かることもある

いっそ雷雨がくればいいのに
そうすればすっきりしちゃう

でもそうじゃない時があるでしょ?

雨にでさえ溺れてしまい
涙に溺れることもある

そんなときはカノンを聴いて
現代解釈を取り払ったオリジナルで踊って

だけど、あなたへのタトゥーだらけの舞踏ですら
心の森の雨に過ぎないのかもしれない

現代解釈を取り払ったパッヘルベルのカノン